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2012/12/16

Fate/stay night [Realta Nua] 感想


2004年の発売以来、活劇ビジュアルノベルのジャンルでは頂点にあり続けるマスターピース。2007年のPS2版をベースとし、PSVITAに最適化して移植された。

「Fate/stay night」の登場以降、数多くのフォロワーが生まれたが、このジャンルにおいてその牙城に比肩し得たものは「マブラヴ オルタネイティブ」と「装甲悪鬼村正」くらいだろう。それだけ比類無き名作である「Fate/stay night」に弱点があるとすれば、それはその膨大なボリュームである。全3ルートどれだけ急いで進めたとしても50時間を超えるプレイ時間は、至福を感じる者がいる反面、敬遠する者も多いだろう。それ故、作品の知名度と実際にプレイした数には大きな格差が開くことになった。

2011年、スピンオフ小説である「Fate/Zero」がアニメ化され大ブレイク。「Fate」という名を知るだけだった人たちにも、その魅力的な世界観とキャラクターが知れ渡った。そして、このタイミングでの携帯機初の「Fate/stay night」である。PSVITAでのプレイ感覚ははっきり言って最高である。2Dと相性がいい有機ELの美麗な画像とくっきりした文字、文句無しの応答速度、タッチ操作とボタン操作のハイブリッドによるストレスのない操作性。そして何より、空いた時間にどこでも気軽にプレイできる携帯機の利点が、膨大なボリュームの本作の敷居を予想以上に下げてくれるのだ。

今回久しぶりに通してプレイして感じたことは、何年経っても色褪せないことへの驚きだ。すでに8年前の作品だが古臭くないのだ。それはおそらく、時代描写の巧妙な回避によるものだろう。もちろん現代の話であることは確かだが、不用意な時代描写を排すことで普遍性を持たせているのだ。古さを感じないということは緻密に構築された完成度の高さである。8年経っても感服させられるとは思わなかった。

今作は未プレイ者、既プレイ者両方にお薦めできる出来だと言えよう。衛宮切嗣が叶えられなかった理想、そしてその理想を受け継いだ衛宮士郎。その理想の結末を手のひらの中で体験して欲しい。

16:9
16:9

中間
中間

オリジナル
オリジナル



2012/12/14

龍が如く5 感想


龍が如くシリーズ、ナンバリングタイトルとしての5作目。ゲームシリーズにおいて、同一主人公、同一世界設定でこれだけシリーズが続くのは珍しい。シリーズが長く続くということは人気の裏付けでもあるが、マンネリという弊害も生み出す。制作チームは「龍が如く4」で複数主人公制を導入することで、停滞気味だったゲーム性とストーリー性を復活させ深化させた。今作は4に引き続き複数主人公制である。

 続編毎に進化を遂げてきた今シリーズの特徴は踏襲されており、今作の大きな変化は遥編とアナザードラマである。
遥編は、これまでキーパーソンだがマスコット的存在だった澤村遥がついにメインヒロイン&主人公となり、初めて能動的にストーリーに関わってくる。さらわれたりさらわれたりおねだりしたりするだけだった遥がとうとう活躍するのだ。内容はアイドルを目指して歌ったり踊ったりする完全に別ゲーだが、やっぱりさらわれるところは安定の芸風である。
アナザードラマとはそれぞれの主人公にメインストーリーとは別の個人的な題材が用意されているもので、人物描写の掘り下げに一役買っている。タクシードライバー、またぎ、ダンスバトル、バッティング対決。本編と毛色の違う操作の新鮮さと程よい難易度で「寄り道が楽しくてメインストーリーが進まないゲーム」という評価を一段と確固なものにしている。

さて感想を言ってしまうと、前作には及ばなかったなあというものだ。前作は4人の主人公が同じ神室町にいながら、交わりそうで交わらず、行き違いを繰り返し、物語のピークに到達する寸前で邂逅し共闘するという、カタルシスの感じさせ方が非常に巧みだった。今作は舞台が福岡、北海道、大阪、名古屋と分散している関係から、各主人公の関係が希薄で、最後に全員が揃っても前作ほどの感動がない。しかも、一人以外は皆すでに知り合いだ。顔を合わせても「おお、お前か」で終わり。各々の物語が収束していく感じがしないのだ。
また、新主人公、品田辰雄編の存在感の薄さも問題だ。個人的には品田というキャラは好きだが、品田編は蛇足な部分が多い。第二部か第三部あたりなら口当たりが軽くて良かったかもしれないが、第四部にもってきたのは失敗だ。遥のコンサートがクライマックスになることは解ることなので、遥編を第四部にしてそのまま最終部に突入して欲しかった。
新たな4つの都市はそれぞれ特徴が異なり、世界観を広げる助けにはなっているものの、肝心の神室町が疎かになっており、前作で拡張したことが無駄になっている。神室町ではほとんどイベントが発生しないので寂しい。

今作で感じたことは、秋山と冴島の物語における使い勝手の良さである。おそらく今後も二人はレギュラーとなるだろう。しかし、使い勝手がよいキャラクターというものは得てして制作者が使いすぎる嫌いがあり、多用するとくどくなる。次回作以降の課題となるだろう。
反面、桐生一馬のキャラクターの弱さが際立ってきた。シリーズに魅力的なキャラクターが増えるとともに桐生の異質さが目についてくる。まずキャラクターモデルにしても、他のキャラがリアルな造形に進化しているのに、桐生だけが漫画のような顔だ。冴島が慕われ、秋山が一目置かれるのは説得力があるが、桐生に人が惹かれていくことには説得力がない。作中で桐生に惚れたと自己申告する奴が多いので、そんなものかと思いがちだが、実際はただ喧嘩が強くて糞真面目なだけの人間味のない男だ。妙齢の女と半同棲しながら一度も手を出してないとか正気とは思えない。キャバクラの女とはホテルに行くのになんなんだろこいつ。

ゲームとしての楽しさは保証されているが、桐生一馬の物語としては破綻してきた龍が如くシリーズ最新作。次回作は桐生を殺すか結婚させないと桐生一馬というキャラクターが持たないのではないか。だいたいこの作品独身ばっかじゃねーか!